「大巧は拙なるが如し」とは？

大巧は拙なるが如し（たいこうはせつなるがごとし）」とは、「真に巧妙なものは、一見すると不器用に見える」という意味の故事成語です。

卓越した技術や知恵を持つ人は、派手な振る舞いや誇示をせず、自然体で物事を行うため、周囲からは一見して拙く見えることがあります。しかし、その背後には深い理解と熟練が隠されているのです。

出典の『老子』第四十五章

この言葉は、中国の古典『老子』第四十五章に記されています。原文では「大巧若拙」と表現されており、下記のような一節が含まれています。

大巧若拙，大辩若讷

「大いなる巧みは拙なるがごとく、大いなる弁舌は訥なるがごとし」と訳され、真に優れた技術や弁舌は、一見すると不器用や口下手に見えることを示しています。

真に器用で美しいものは、飾らないものであるべきだという意味であり、老子の美学観があらわれています。

「大巧は拙なるが如し」の時代背景

『老子』は、紀元前6世紀から5世紀頃に成立したとされる道家思想の根本経典であり、老子（李耳）によって著されたと伝えられています。当時の中国は戦国時代に向かう春秋戦国の混乱期であり、様々な思想家が現れ、儒家、道家、墨家などの諸子百家が活躍していました。その中で、老子は自然と調和した生き方を説き、無為自然の思想を提唱しました。

「大巧若拙」は、老子の無為自然の思想を象徴する言葉であり、真の技術や知恵は自然体であり、無理に誇示するものではないという考え方を示しています。

現代への教訓

(1) 真の実力は静かに現れる

現代社会では、自己アピールや成果の誇示が重視されがちですが、「大巧は拙なるが如し」は、真の実力は静かに現れるものであり、派手な振る舞いよりも内面の充実が重要であることを教えてくれます。

(2) 自然体の大切さ

無理に自分を飾ることなく、自然体でいることの大切さを説いています。自分らしさを大切にし、自然な振る舞いの中にこそ、本当の魅力や実力が宿るのです。

(3) 謙虚さと内省の重要性

自分の技術や知恵を誇示せず、謙虚な姿勢でいることの重要性を示しています。常に内省し、自分を見つめ直すことで、さらなる成長が期待できます。

まとめ

「大巧は拙なるが如し」は、真の技術や知恵は一見すると拙く見えるが、実際には深い理解と熟練が隠されていることを教えてくれる故事成語です。この言葉は、老子の無為自然の思想を象徴しており、現代社会においても、自己アピールよりも内面の充実や自然体の大切さ、謙虚さと内省の重要性を再認識させてくれます。日々の生活や仕事の中で、この言葉の意味を噛みしめ、自分自身の在り方を見つめ直すきっかけとしたいものです。