出典:漢書
不撓不屈とは
「不撓不屈(ふとうふくつ)」という言葉の出典は、中国・前漢の歴史書『漢書(かんじょ)』です。『漢書』は、後漢時代の歴史家・班固(はんこ)によって書かれた、前漢の歴史をまとめた正史で、『史記』に続く中国古代史の基本文献の一つです。
この言葉が登場するのは、『漢書』の中の「叙伝(じょでん)」という巻です。そこには、志を持ち、どんな困難にも屈しない人物の姿勢を表す次のような一節があります。
「其の志、愈え堅く、撓まず、屈せず。」
(その志は、ますます堅く、くじけることなく、屈することもなかった。)
この「撓(たわ)まず、屈(くっ)せず」という表現が、後に四字熟語としてまとめられ、「不撓不屈」となったのです。
この言葉は、単に「強い」という意味ではなく、困難や逆境の中でも信念を曲げず、粘り強く生き抜く姿勢を表すものです。中国の歴史においても、こうした精神を持つ人物は高く評価され、後世の教訓として語り継がれてきました。
このように「不撓不屈」は、歴史の中で生きた人々の実践から生まれた、深い意味を持つ言葉なのです。
歴史的な背景
「不撓不屈」という言葉が生まれた背景には、古代中国・前漢の時代の価値観や人物評価の基準があります。
この言葉が初出となった『漢書』は、前漢という王朝の歴史をまとめた資料で、人物の生き方や考え方を紹介する伝記がたくさん載っています。その中には、困難や圧力に負けず、自分の志を貫いた人たちの物語が多く語られています。
「不撓不屈」という表現は、まさにそのような人々の生き方を表す言葉として使われました。
たとえば、貧しい出身でありながら、学問や政治の世界で活躍した人物、戦争や争いに巻き込まれながらも正しい道を選び続けた人物など――そうした「信念を曲げなかった人々」が、「撓(たわ)まず、屈(くっ)せず」と評価されたのです。
この時代、中国では「仁・義・礼・信」といった道徳的な価値観が重んじられており、外的な困難よりも「内なる志を守ること」が美徳とされていました。つまり、「不撓不屈」という言葉には、「人としての強さとは、環境ではなく心の持ちようで決まる」という考え方が根づいているのです。
また、当時の政治の世界では、権力者に迎合せず、正しいと思うことを貫いた人物が称賛されました。命をかけて諫言(かんげん=正しいことをはっきり言う)をした官僚や、圧力に屈せず民を守った将軍たちの生き方が「不撓不屈」の象徴とされたのです。
このように、「不撓不屈」は古代の偉人たちが実際に示した精神的な強さを言葉にしたものであり、その価値は時代を超えて、現代にも深く通じるものがあります。
現代への教訓
不撓不屈」は、現代社会においても非常に力強いメッセージを私たちに届けてくれます。とくに、下記の3つの側面で重要な意味を持ちます。
困難に直面しても諦めない心
私たちは、学校や仕事、家庭、人間関係など、さまざまな場面で思い通りにいかないことや、くじけそうになるような経験をします。
「不撓不屈」は、そうしたときに「決して自分を見失わず、信じた道を貫こう」と背中を押してくれる言葉です。ただ強がるのではなく、自分の気持ちをしっかり持ち、簡単にあきらめない強さ――それがこの言葉の本質です。
他人や環境に流されない芯の強さ
現代では、周囲の意見や流行、SNSの空気などに流されがちです。「みんながこうしているから」「やらないと損だから」と自分の意志を曲げてしまうことも少なくありません。
しかし、「不撓不屈」は、そんな風潮に対して、「自分の考えや信念を持ち、それを大切にしよう」と訴えます。外部の圧力に負けず、自分の価値観を持って行動する人こそが、本当の意味で信頼され、尊敬されるのです。
長い人生を生き抜く持久力と忍耐
人生には、短期的な成功だけでなく、長期的な努力や継続が求められる場面も多くあります。スポーツでも、勉強でも、仕事でも、すぐに結果が出るとは限りません。
「不撓不屈」は、そうした「すぐに報われない時間」こそが大事だと教えてくれます。逆風の中でも耐え抜く強さ、そして歩みを止めない粘り強さ。それこそが、最終的に大きな成果を手にする鍵なのです。
不撓不屈の代表的な人物
司馬遷(しばせん)|中国・歴史家(紀元前2世紀)
司馬遷は、中国前漢時代の歴史家で、名著『史記』の著者です。彼の人生こそが「不撓不屈」の典型例とされています。
彼は将軍・李陵をかばって皇帝・武帝の怒りを買い、極刑に値する「宮刑(きゅうけい)」という非常に重い刑罰を受けます。当時の価値観では恥とされ、ほとんどの人が耐えられず自害を選ぶような刑でした。
しかし司馬遷は、生きることを選び、父から引き継いだ「歴史を記録する」という志を守るため、『史記』の執筆に打ち込みます。
その強靭な精神と持続力はまさに「不撓不屈」。数千年たった今も、その業績は語り継がれています。
ヘレン・ケラー(Helen Keller)|アメリカ・社会活動家(1880–1968)
ヘレン・ケラーは、生後間もなく高熱による病気で視覚・聴覚・言語を失った全盲ろう者でした。
しかし、家庭教師のアン・サリヴァンとの出会いにより、手のひらに文字を描く「タッチ・サイン」から言葉を覚え始めます。そして、自らの障害を乗り越え、大学を卒業。後に社会活動家・作家・講演家として、障がい者支援と女性の地位向上のために国際的に活躍しました。
彼女の言葉「世界で最も素晴らしいことは、目に見えないものに触れること」は、苦難の中で育まれた深い信念に裏打ちされています。
絶望を希望に変えた生き方は、まさに不撓不屈の人生でした。
吉田松陰(よしだ しょういん)|日本・思想家・教育者(1830–1859)
吉田松陰は、幕末の思想家で、長州藩に私塾「松下村塾(しょうかそんじゅく)」を開き、多くの志士を育てました。
黒船を見て日本の将来を案じた彼は、命をかけて密航を試みたことで捕らえられ、数々の投獄を経験します。
幕府に対する批判的な思想のため再び捕らえられ、最終的には30歳という若さで処刑されますが、死の直前まで国家と民の未来を考え、教育と思想の種をまき続けました。
後に明治維新を担った高杉晋作や伊藤博文らは、皆、彼の教え子です。
時代に抗いながら信念を貫いた彼の姿勢は、日本における「不撓不屈」の象徴です。
ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)|南アフリカ・政治家(1918–2013)
ネルソン・マンデラは、南アフリカ共和国で長く続いたアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対した活動家・政治家です。
人種差別と戦った結果、国家によって27年間も刑務所に収監されます。その間、肉体的・精神的な苦痛にさらされながらも、決して怒りや復讐に走ることなく、和解と平和を目指す姿勢を貫きました。
出所後は初の黒人大統領として就任し、白人と黒人の対立を乗り越える政策を進め、世界中の尊敬を集めました。
彼の有名な言葉に、
「私は自由への長い道を歩んできた。転んでも、立ち上がったから今ここにいる」
まさに、不撓不屈そのものです。
まとめ
「不撓不屈」という四字熟語は、ただ「強い人」を称えるための言葉ではありません。むしろ、「苦しいときにこそ、自分の信念を持ち続けよう」「諦めずに一歩ずつ進もう」という、私たち一人ひとりに向けた励ましの言葉です。
李密のように、自分の信じる価値を大切にし、たとえ逆境でも志を曲げない心。それは、どんな時代でも必要とされる「真の強さ」です。
現代社会では、挫折やストレスがつきまとうこともありますが、「不撓不屈」の精神を胸に、自分自身の人生をしっかりと歩んでいくこと。それが、この言葉が私たちに教えてくれる、もっとも大切な人生の教訓ではないでしょうか。

田中部長と「不撓不屈」~営業部、あきらめなさすぎて迷惑か!?~
🏢シーン:営業部オフィス
ある日、営業部に1本の電話が。
赤井商事から「今回のご提案はお断りします」との通知…。
しかし――
田中部長:「諦めるのは、まだ100年早い!!」
この言葉とともに、営業部の「不撓不屈スイッチ」がONになってしまった――!?
【登場人物】
- 田中部長(50歳):あきらめない精神だけは日本代表級。営業で五輪があれば金メダル狙うレベル。
- 山本課長(40歳):常識人&現実主義。引き際の判断は早いが、今回は巻き込まれる。
- 佐藤さん(25歳):部長に憧れてるけど、方向性がややおかしい。執念だけは超一流。
【会話】
田中部長:「赤井商事から“今回は見送ります”だと!? いいだろう……だが、我々は不撓不屈だ!!」
山本課長:「いや、普通は一回断られたら、タイミングを見て再提案するもんですよね…?」
田中部長:「そんな生ぬるいやり方で、どうする!? 今すぐ再提案の準備だ!! 24時間不屈営業モード突入!!」
佐藤さん:「了解です!! “あきらめたら営業終了”ってTシャツ作ってきますね!!!」
山本課長(小声で):「まず落ち着こうな…一旦、お茶飲も?」
【田中部長の「不撓不屈」作戦】
⚡作戦①:「断られても、1日1通メールで追撃!」
田中部長:「まずは1日1回、熱意メールを送り続けろ!! 内容はこうだ!!」
📧件名:まだ諦めていません
本文:
“お世話になります。昨日も本日も、明日も御社のことを思っております。”
山本課長:「いやいやいや!それ、ラブレター!? 逆に引かれますって!」
佐藤さん:「じゃあ、件名を“熱意の第12便”にしてみます!」
山本課長(震え声):「やめてええええええ!!」
⚡作戦②:「訪問は“笑顔で粘着”作戦」
田中部長:「次に、直接出向いて断られるまでが営業だ!」
佐藤さん:「了解です!! “絶対に折れない営業スマイル”で行ってきます!!」
(訪問中)
佐藤さん:「こんにちは〜!あの、ご挨拶だけでも〜🌸」
受付の人:「あの…担当の方は会議中でして…」
佐藤さん:「では…終わるまで…入口で正座して待ってます!!」
山本課長(小声で):「ホラーになってるぞ、それ……」
⚡作戦③:「再提案資料、前回の10倍ボリュームで!」
田中部長:「最後の手段だ!“資料量で押し切れ”作戦!! 前回の10ページじゃ足りなかった!今回は…100ページだ!!」
山本課長:「情報過多で逆に読まれませんって!!」
佐藤さん:「じゃあ、香り付きページも混ぜて印象アップ狙います!」
山本課長(疲):「それもう資料じゃなくて仕掛け絵本ですよね!?」
【クライアント再訪:衝撃の結末】
(営業部一同、分厚い資料と笑顔と根性を携えて再訪問)
クライアント:「あれ…前回お断りしたはず…ですよね…?」
田中部長:「はい!! ですが、我々は“不撓不屈”!!!」
佐藤さん:「この資料、100ページ超!そして1ページごとに愛が詰まってます!!」
クライアント(困惑):「……えっと……その熱意は……正直ちょっと……怖いです……が……」
田中部長:「ありがとうございます!!(まだ何も言われてない)」
クライアント:「いや、でもここまでされたら…一度、検討してみます。」
田中部長:「勝ったッッ!!!」
山本課長(小声で):「え、勝ってない、勝ってない……。
こうして営業部は、「あきらめない心」「超絶しつこさ」で、
まさかの再評価を勝ち取りかけた。だが――
この「不撓不屈」が次回も通用するかどうかは、完全に謎である。