出典:道徳経
老子の教え「絶巧棄利」(ぜっこうきり)とは?
老子が説いたとされる「絶巧棄利」は、『道徳経』第19章に下記の文章があります。
絶聖棄智、民利百倍;絶仁棄義、民復孝慈;絶巧棄利、盗賊無有
訳:聖と智を棄(す)てれば、民の益は百倍。仁と義を絶ちて棄てれば、民は孝と慈しみに帰る。巧と利を絶ちて棄てれば、盗賊はなくなる
ここで老子は、人々が「巧(たくみ)」と「利(り)」、すなわち過度な技巧や利益追求をやめれば、争いや盗賊のような混乱が自然になくなると説いています。
「巧」と「利」の意味
・巧(たくみ)
ここでは、単に職人技や手先の巧みさを指すのではなく、ずる賢さや策略、過剰な装飾などを含む「余計な技巧やテクニック」を意味すると考えられます。老子は、本来はシンプルな思想と行動の「道」に、必要以上の技巧を施すことを戒めています。
・利(り)
「利益」「利得」について、老子が批判しているのは、利己的な欲望や過度の金銭欲など、自分の利益を最優先しようとする姿勢です。人々が必要以上に利を追求すれば、不正行為や争いの原因となる――それが老子の見立てでした。
「絶巧棄利」の狙い
老子は、混乱をもたらす根源として「余計な技巧」や「過剰な利益追求」を挙げ、それらを断ち切ることで社会に平和と調和をもたらそうとしました。表面的には過度な技術や派手な装飾が目を引き、一見すると発展のように見えるかもしれません。しかし老子が求めるのは、自然の道理(道)にかなったシンプルかつ素朴な生き方です。
- 「巧」や「利」に振り回されると、人間同士の対立や盗みなどの不正行為が生まれる。
- そこから自由になることで、争いや混乱のない社会が築ける。
現代への示唆
私たちの暮らしは情報とテクノロジーに満ち、あらゆる面で便利になっています。一方で、過剰なマーケティングや利益追求が生み出す消費社会の問題、複雑化しすぎたシステムが招く不安やストレスなど、多くの課題にも直面しています。
- 自分の本質的なニーズを見極める
- 必要以上のものを求めない
- シンプルで自然な流れを重んじる
このような姿勢こそが「絶巧棄利」に通じるところと言えるでしょう。老子の言葉は、「いま本当に必要なことは何か」を見つめ直す大切さを、改めて私たちに気づかせてくれます。
【登場人物】
- 田中部長: 落ち着きのあるリーダーで、物事の本質を重視するタイプ。
- 山本課長: 工夫が大好きで、何でも手を加えたがる行動派。
- 佐藤さん: 素直で観察力が鋭い新人社員。ときどき辛辣なツッコミを入れる。
舞台は営業部のオフィス。新商品『シンプルカップ』の改良案について話し合っている。
田中部長:
「さて、この新商品の『シンプルカップ』だが、クライアントから改良の要望が出ている。何かアイデアはあるか?」
山本課長:
「はい!思い切ってデザインを全面的に変更するのはどうでしょう?カップの側面にLEDを埋め込んで、飲むたびに光るようにするとか!」
佐藤さん:
「……それ、完全に『シンプル』じゃなくなりません?」
山本課長:
「いやいや、今の時代、シンプルだけじゃダメなんだよ!派手さも必要だ!」
田中部長:
「山本、それを聞いて思い出したのが老子の『絶巧棄利』という教えだ。」
山本課長:
「また出ました、部長の故事成語講座(笑)。今回はどんな話なんですか?」
【故事の解説】
田中部長:
「『絶巧棄利』は、『巧みな技や過剰な利益を捨てよ』という老子の教えだ。余計な工夫や欲張った利益を追求するのではなく、自然体であることが大切だという意味だ。」
佐藤さん:
「つまり、『シンプルカップ』を光らせたり派手にしたりせず、そのままの良さを活かせということですね。」
山本課長:
「でも部長、それだと他社の製品と差別化できませんよ!もっと目立たないと!」
田中部長:
「山本、老子の教えは目先の工夫ではなく、根本的な価値を見極めろということだ。このカップの良さは何だ?」
佐藤さん:
「カップとしての基本性能がしっかりしていることですよね。軽くて持ちやすいし、無駄な装飾がないのが魅力です。」
【議論が進む】
山本課長:
「でも、LEDを入れたり、金メッキを施したりすれば、高級感が出ると思うんですよ!」
佐藤さん:
「課長、それだとお客様に『このカップ、本当に必要?』と思われません?」
田中部長:
「佐藤の指摘は的確だ。余計な工夫をすると、かえって商品の本質が見えなくなることがある。老子が言うように、不要な技巧や利益を捨てることで、本当の価値が引き立つんだ。」
山本課長:
「でも、何も変えないって、逆に手抜きに見えませんか?」
佐藤さん:
「それなら、『シンプル・イズ・ベスト』というコンセプトを強調すればどうでしょう?余計なことをしないこと自体が、魅力になると思います!」
田中部長:
「良い提案だ。お客様に『これはシンプルであることが最大の価値だ』と伝える戦略を考えよう。」
【結果】
数週間後
佐藤さん:
「部長、新しい広告戦略が大成功です!お客様からも『無駄がなくて使いやすい』と好評でした!」
山本課長:
「お客様の声に感動しましたよ。『こんなにシンプルな商品が欲しかった』って言ってくれました!」
田中部長:
「そうだろう。余計な工夫や利益を追わず、商品の本質を大事にすることで、お客様の心に響くんだ。」
佐藤さん:
「これからも『絶巧棄利』の教えを活かして、無駄を削ぎ落とした商品作りを目指します!」
山本課長:
「……でも、次の商品にはちょっとだけLEDを入れたいんだけどな(笑)。」
【教訓】
「絶巧棄利」の教えは、余計な工夫や利益を追求するのではなく、物事の本質を見極めることが重要だというものです。ビジネスや日常においても、不要な手間や装飾を捨て、シンプルに物事の価値を伝えることで、真の成功を掴むことができます。