出典:『荘子』外物篇
「魚を得て筌を忘る」とは?
魚を得て筌を忘る(うおをえてうえをわする)とは、魚を釣ってしまうと、釣り道具の筌(竹製漁具)を忘れてしまうということ。 転じて、その目的を達成をすると、役立ったものを忘れてしまうたとえ。
目的を達成するために有用な手段は、目的達成後には失いやすいこと。
「魚を得て筌を忘る」の教訓は現代にも通じるほか、さらに実用的にも使えます。例えば、教育やトレーニングにおいて、先生やコーチから学んだものが、成功を経たとたんに忘れてしまうことがあります。
しかし、荘子は「筌」の存在がなければ、結果として「魚」を手にすることはできません。これは、目標が達成したとはいえ、そのものの価値を忘れてはならないという教訓を伝えています。
魚を得ても筌を忘れないチームのつくり方
【登場人物】
- 田中部長: 長年の経験を持つ、チームを見守るリーダー。
- 山本課長: 目標達成に一直線で走るタイプ。
- 佐藤さん: 素直で観察力が高い新人社員。
舞台は営業部のオフィス。新しいクライアントとの契約成立後、次のステップについて話し合っている。
田中部長:
「さて、新しいクライアントとの契約が無事に成立した。この成果を次にどう活かすかを話し合いたい。」
山本課長:
「部長、この契約が成立した以上、早速次の案件に進むべきです!もう十分に成果は出ましたし、この件は忘れていいと思います。」
佐藤さん:
「課長、それって『魚を得て筌を忘る』になっていませんか?」
山本課長:
「『魚を得て筌を忘る』?なんだそれ?」
【故事の解説】
佐藤さん:
「この故事は、『魚を捕るために使った筌(魚を捕るための漁具)は、魚を得たら不要になる』という意味です。目標を達成した後、その過程や道具を忘れてしまうことを指します。」
山本課長:
「確かに、道具は不要になることもありますよね。でも、それがどうしたんですか?」
田中部長:
「山本、それがただの道具の話ならいいが、仕事に置き換えると問題になることが多い。例えば、この契約が成立した背景にある努力や工夫を忘れてしまえば、同じ成功を再現することは難しい。」
【議論が進む】
山本課長:
「でも、契約が成立したのだから、十分じゃないですか?成果を出した以上、次に進むべきですよ。」
佐藤さん:
「課長、たとえば今回の契約が成功したのは、クライアントに寄り添うために何度も修正を重ねた提案があったからですよね。そのプロセスを忘れてしまったら、次のクライアントに同じ努力ができなくなるかもしれません。」
田中部長:
「佐藤の言う通りだ。『筌を忘る』とは、単に道具を忘れるだけではなく、その過程にある学びや教訓を軽視することにも繋がる。」
【教訓を活かす】
山本課長:
「なるほど……。でも、すべてのプロセスを振り返るのは時間がかかりませんか?」
佐藤さん:
「それなら、成功したポイントや反省点を簡単に記録するのはどうでしょう?次に役立つように振り返りを残すだけでも価値があると思います。」
田中部長:
「良い提案だ。契約成立がゴールではなく、次のステップのための基盤だと考えるべきだな。」
山本課長:
「確かに……。過去の教訓を活かすことで、次の案件でもスムーズに進められますね。」
【数ヶ月後】
佐藤さん:
「部長、課長!今回の新規契約も成功しました!前回の振り返りが大きな助けになりましたね。」
山本課長:
「そうだな。佐藤の言った『筌を忘れない』姿勢が功を奏したよ。前回の工夫がそのまま活かせた。」
田中部長:
「素晴らしい。『魚を得て筌を忘る』ではなく、過程を忘れない姿勢が次の成功に繋がったな。」
佐藤さん:
「これからも、どんな成果があっても、学びを大事にしていきましょう!」
【教訓】
「魚を得て筌を忘る」の教えは、目標達成の過程で得た教訓や工夫を忘れないことの重要性を伝えています。ビジネスや日常においても、一度成功したからといって過去の努力や方法を軽視すると、次の成功が遠のく可能性があります。成果が出た後こそ、振り返りと学びが必要なのです。