漁夫の利/戦わずに勝利する戦略

教訓
争いの間隙を突いて漁夫が利益を得る

   戦国策

漁夫の利とは

「漁夫の利」は、中国の古典『戦国策』燕策に記された故事に由来します。この故事成語は、二者が争っている間に第三者が利益を得るという状況を表し、争いの隙を見極め、戦わずして利益を得る戦略の重要性を示しています。

エピソード

紀元前4世紀ごろ。当時の中国は戦国時代。秦、斉、趙、楚、韓、魏、燕の7国が列強とされていました。特に秦は徐々に力が増長し領土を広げていました。

そこで、趙国は秦国に対抗するために、燕国を攻略して領土拡大を目論みました。すると、趙国が攻めてくると聞いた燕国は合戦を中止させるために燕国宰相の蘇代を趙に派遣して、両国の合戦後で疲弊したところに、秦が攻めてくるであろうと理屈を説き、趙の出兵を止めさせました。

燕の宰相・蘇代は趙の恵文王に謁見し、燕と趙の間の緊張状況について話し合いました。

恵文王:燕が我が国境を侵しつつある。これに応じて軍を動かすべきだろう。

蘇代:陛下、そのような決断を急ぐのは賢明ではありません。争いの結果を左右するのは、時として戦場ではなく、第三者の利益となる場合があります。ここで一つ例え話をさせていただきます。

恵文王:策があるのでしょうか?

蘇代:ある日、川辺で貝と鷺が出会いました。貝は自分の縄張りを主張し、鷺を追い出そうとしました。一方、鷺も自分の自由を主張して引き下がりませんでした。ついには争いが激化し、鷺はくちばしで貝を挟み、貝も殻を閉じて鷺のくちばしを挟みました。

両者ともに引けを取らず、力尽きる寸前のところで、漁夫が現れました。漁夫はこの状況を見て、『愚かなことだ。争い続ければ、両方とも私のものになるだけだ』と言いながら、簡単に二匹を捕まえたのです。

蘇代は恵文王に語気を強めて言いました。

蘇代:燕と趙が争えば、秦が漁夫のように利益を得るでしょう。戦争を避け、燕と協調する道を模索すべきです。

恵文王:蘇代の話には一理ある。秦が利益を得るのを防ぐためにも、我々は冷静に行動し、燕との対話を進めるべきだ。

燕と趙の間で戦争は回避され、第三者である秦の勢力拡大を防ぐことに成功しました。このエピソードは、戦国時代の外交術の重要性を物語っています。

蘇代の策略
  1. 戦争回避の提案:もし趙と燕が戦争を始めた場合、彼らはお互いに疲弊し、最終的に第三者(秦国)によって利益を取られるだけだと説明しました。彼の説得によって、趙と燕は戦争を一時的に回避することができました。
  2. 第三者の利益:蘇代の言葉により、戦争が始まれば他国、特に強力な秦国がその隙間をついて介入し、最終的に最も利益を得るのは自分たちではなく秦国であることを認識させました。この提案によって、双方は無駄な争いを避けることができたのです。

『戦国策』によると、戦争を回避するという蘇大の提案は一時的な成功に終わりましたが、その後、秦国はこの隙間を狙って侵攻を開始しました。

秦国は、趙と燕が戦争を回避している隙間をついてその戦力を拡大し、両国をさらに困難な状況に追い込みました。蘇代がその時点でどのように対処したかについては、書かれていません。

現代ビジネスへの応用

現代ビジネスにおいても多くの教訓を与てくれる「漁夫の利」。特に競争や対立が激しい市場において、この概念を理解することは、成功への鍵となる場合があります。

1. 競争の隙間を狙う

 ビジネスでは、競合同士が激しく争っているレッドオーシャン市場では、その隙間をうまく利用することが「漁夫の利」を得ることになります。

大企業同士が価格競争を繰り広げている市場では、その間隙に高品質な製品を提供することで、価格競争から一歩離れた価値を提供することが可能です。競争が激しい分野であえて違ったアプローチを取ることで、新たな市場を開拓できることがあります。

2. 業界の転換期における新たな機会の活用

競合が新技術に注力した既存市場で優位な領域では、その技術革新がもたらす変化を素早く把握し、別の角度からアプローチすることが「漁夫の利」となり得ます。

例えば、急速に進化するテクノロジー分野では、ある企業が開発した新しい技術が市場を席巻しているとき、その技術を使いこなすことができれば、競争の真っただ中で新たな収益源を得るチャンスとなります。

3. 政治的・社会的対立から生まれるビジネスチャンス

 企業間の合併や買収、または政治的・社会的対立が生じたときに、その隙間で新たなビジネスチャンスを見つけることも「漁夫の利」に当たります。例えば、法改正や政策変更が企業活動に大きな影響を与える場合、それに合わせて戦略を変更することで競合に対して優位性を確保できます

4. 中立的立場を活かす

競合が争っている状況で、中立的な立場を取ることも「漁夫の利」に通じます。例えば、消費者と供給者、または業界の異なるプレイヤー間の対話の場を提供することで、その両者から利益を得ることができる場合があります。中立的立場で競合の間に入ることで、双方の利害を調整する役割を果たすことができます。

まとめ

「漁夫の利」は、争いの間隙を冷静に突くことで利益を得る重要性を説いています。現代ビジネスにおいても、競争相手の動向や市場の状況を冷静に観察し、適切なタイミングで行動を起こすことが成功の鍵となります。この知恵を、日常やビジネス戦略に活かしていきましょう。

プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

Takeshiをフォローする
教訓
タイトルとURLをコピーしました