出典:荘子
「大を爲すは、以って大と爲すに足らず」とは?
「大(だい)を爲(な)すは、以(も)って大(だい)と爲(な)すに足(た)らず」とは、自分が行った仕事を「大きな仕事」と考えるような思考または人間は、とうてい大きな仕事はできないという意味です。
「大を爲すは、以って大と爲すに足らず」の成り立ち
中国戦国時代の思想家・荘子(そうし/荘周)の書『荘子』外篇に収められた一節です。
荘子は、世間の名声や功績にとらわれず、「道(タオ)」という大いなる自然の流れに身をゆだねて生きることを説きました。
この故事の中で、ある人物が自分の功績を誇り「私は大事業を成し遂げた」と自慢します。すると荘子は次のように諭します。
「大を爲すは、以って大と爲すに足らず」
――もし自分のしたことを「大きい仕事」だと思った瞬間、
その人はもう「大きな仕事」を成し遂げる器ではなくなる。
荘子にとって「大」とは宇宙や自然の無限性と同義です。個人の行為がどれほど立派に見えても、天地の大いなる営みから見れば取るに足りません。自らの手柄に執着する心こそが、さらなる成長を妨げる――これが荘子の真意です。
*荘子や老子の解説に欠かすことができない言葉「道(Tao)」。人類史において、宇宙の万物の起源としての「道(Tao)」は、老子によって初めて提唱されました。この言葉は、老子とその著作の核心にあり「魂」と言えます。これまでの歴史のなかで、老子の 「道(Tao) 」に対する人々の解釈は千差万別であり、人々が意味を理解できないほど神秘的です。
儒家とのコントラスト
この時代、諸子百家の一つで孔子の学問を奉ずる 儒家(じゅか)は「功名・立身出世」を肯定していました。社会的秩序の中で「徳」を実践することを重視しました。
一方、荘子は「功績を掲げようとする心」そのものが束縛だと見抜きました。
- 儒家:徳を磨き、名声を立て、社会を良くする。
- 荘子:名声を求める心が、かえって自由と創造性を損なう。
「大を爲すは、以って大と爲すに足らず」ー現代ビジネスへの7つの教訓
1. 成功の“定点観測”がイノベーションを殺す
――「昨日の栄光」を神棚に祀らない**
- 陥りがちな罠
プロダクトがヒットすると、KPI・ブランド資産・社内表彰が“金メダル”化し、誰も疑わなくなる。 - 荘子的視点
「大」と思った瞬間、視野は宇宙規模から“自社の成功物語”へ縮小する。 - 対策
- 目標達成の翌日に “What’s next?” レビュー を必ず設定。
- 成功指標を“顧客価値の更新頻度”や“仮説の学習速度”に置き換え、常に次の未知へ焦点を移す。
2. 謙虚なリーダーシップが生む“心理的安全性”
- データで裏付け
Googleのプロジェクト・アリストテレスは、高パフォーマンス・チームの最重要因子を心理的安全性(Psychological Safety )と特定。 - 荘子的教訓
リーダーが自らの功績を誇らない姿勢こそ、部下が挑戦的アイデアを出しやすい空気を生む。 - 具体策
- 失敗シェア会:経営層が「自分の失敗」を最初に語る。
- ノーヒーロー・ルール:成果を個人名で称えず、チーム学習として祝う。
3. “学習する組織”のメタ認知ループ
- 組織学習モデル(ピーター・センゲ)
- システム思考
- メンタルモデルの刷新
- 共有ビジョン
- チーム学習
- 自己マスタリー:自分が「どのようにありたいのか」「何を創り出したいのか」などの明確なビジョンを持ち、現実とビジョン間を、創造的な力に変えて、内発的な動機を築くプロセス。
- 荘子的補助線
「天地の大に比べれば、常に未完成」と自覚することで、学習ループが止まらない。 - 運用例
- AAR(After Action Review) をプロジェクト単位で必ず実施し、学びを社内Wikiに公開。
- “未完成OK”のMVP文化:完全版より学習スピードを重視。
4. 評価制度:アウトカム(結果)と同じ重みで“探索”を評価する
- 問題
KPI(Key Performance Indicator)偏重は「達成済み領域の最適化」に社員を縛り、新規探索を萎縮させる。 - 荘子的回答
大を為す人は、自分の仕事を“大”と呼ばない=探索フェーズに居続ける。 - 制度設計
- OKR(Objectives and Key Results)に “Learning Key Result” を並立:例)「今四半期に×件の実験を完了し、意思決定の前提を更新」
- 報酬プールの10〜15% を“探索ボーナス”として確保し、成果が出なくても挑戦回数で配分。
5. 個人キャリア:固定的成功モデルから「生成的キャリア」へ
- Growth Mindset
能力は努力と学習で伸びるという信念がパフォーマンスを高める。 - 荘子的回答
「自分の器を大きいと決めつけるな。空であれ」 - 行動指針
- 年1回の“キャリア脱皮計画”:専門性・市場変化・パーパス(目的)を再点検。
- スラッシュワーク(本業+副業+学習コミュニティ)で視野を多層化。
6. 戦略思考:短期利益 vs. 長期 “道”の統合
- 課題
四半期決算プレッシャーが長期研究開発を削る。 - 荘子の視座
大道=長期・全体最適。短期成果を“大”と錯覚すると戦略軸がぶれる。 - 実装アイデア
- ツリー型OKR(Objective and Key Result):上位に10年ビジョン→3年テーマ→四半期OKRを連鎖させ、短期行動を“道(Tao)”と接続。
- 社内VC(Venture Capital)モデル:基礎研究や未来事業を“別勘定”で保護し、短期PLに左右されない資金循環を確保。
7. 儀式とナラティブ:成功物語を“点”でなく“線”にする
- 実務ヒント
- 年次「未完了カンファレンス」:完了したプロジェクトより、現在進行形の問いを共有する場に重心を置く。
まとめ
荘子は「無為自然」の立場から、功績への執着が人の自由を奪い取ると説きました。
「大を爲すは、以って大と爲すに足らず」――
真に大きなことを成し遂げる人は、決してそれを「大きい」とは言わない。
私たちも目の前の成果にとらわれず、常に学び、挑戦し続ける“空の器”でありたいものです。
肩書や数字に惑わされず、天地のスケールで物事を見渡すとき、次の「大」への扉が開かれる――荘子の言葉は、忙しい現代人にこそ響くメッセージを放っています。

田中部長と“大を爲す”~営業部、デカいこと狙いすぎて小さいところ全滅!?〜
青山商事との大型案件を目前に、営業部は異様な盛り上がりを見せていた。
田中部長:「よし! この案件が決まれば、営業部は“社内伝説”になる!!
……いや、営業界の“道(タオ)”を築く存在になるッ!!」
佐藤さん:「わあ~!! 社史に載っちゃいますかね!? 写真撮りましょうか!?✨」
山本課長:「ちょっと落ち着きましょうか。まだ何も始まってませんし、そもそも契約取れてません。」
田中部長:「いや、“大を成す者”は、事前に“大いなる己”を知る必要がある!!」
(と言いながら、名刺に“未来の伝説”と肩書きを書き加え始める)
山本課長(冷静):「老子の教え、180度間違えて解釈してますよね!?」
🧠【田中部長、道に目覚める】
(部長の机に『老子道徳経』の本が)
田中部長:「……ふむ。“大を爲すは、以って大と爲すに足らず”…」
佐藤さん:「えっ!? 今“ドヤ顔”で読み上げましたけど、意味わかってます?」
田中部長(キラキラ):「つまり、“本当にすごい人は、自分がすごいとは思ってない”ってことだな!」
山本課長:「じゃあ、なんで“未来の伝説”って名刺に書いたんですか!?」
田中部長:「…………。」
【大事を狙う営業部の迷走】
💣作戦①:「プレゼンのテーマは“宇宙”」
田中部長:「“大いなる提案”には、“大いなるスケール”が必要!!」
佐藤さん:「じゃあ、スライド1枚目は“宇宙空間に浮かぶ我が社のロゴ”でいきます!!」
山本課長:「え、なにこの資料? 最初の20枚が星と銀河だけなんですけど!?」
💣作戦②:「語彙はとにかく大きく!」
佐藤さん:「部長、プレゼンのセリフ案できました!」
📜「我々の提案は、時代を動かす、
銀河系級の…文明的革新です!!」
田中部長:「うむ!! 壮大で良い!!」
山本課長(絶望):「伝わらないって!! クライアントがドン引きするって!!」
💣作戦③:「“ちょっとした気配り”を全スルー」
田中部長:「大きなことを為すには、小事など構っていられん!!」
佐藤さん:「あの、名刺渡し忘れてますけど…」
田中部長:「いいのだ! “気配り”は小さき者の道!!」
山本課長:「いや、最低限のビジネスマナーはやってくれ!!」
【プレゼン当日:大事を狙いすぎて迷走MAX】
(プレゼン冒頭)
田中部長:「本日は、人類の進化に貢献する提案を持ってまいりました。」
(スライド1:地球の映像)
(スライド2:宇宙に飛ぶペンギン)
クライアント:「えっ…なにこれ?」
佐藤さん:「未来的な演出です!あ、ちなみに名刺渡してません!」
山本課長(小声):「だから言ったのにぃぃ!!」
😲【結末:まさかのひとこと】
(プレゼン後、沈黙)
クライアント:「……正直、何を提案されてるのか、半分もわかりませんでしたが……」
クライアント:「でも、“やたら大きな自信”だけは伝わりました。」
(微笑んで)「今回は見送ります。」
営業部全員:「ぎゃああああ!!」
🎐【その夜、営業部にて】
(しょんぼり。帰社する田中部長)
田中部長:「……やはり、“大を為す”とは…
“自分で偉大だと思ってるうちは、まだまだ小さい”…ということか……」
佐藤さん:「じゃあ次は、小さな気配りから始めましょうか?」
山本課長(泣き笑い):「まず名刺からね!!!」
こうして営業部一団は、“大きいことをやろうとすればするほど、小さなことを忘れる”という超リアルな道の落とし穴を体験することになった。
しかし、失敗から学ぶ心がある限り、
「本当に大きなこと」は…少しずつ近づいてくるかもしれない。