鶏口牛後/小さくても集団のトップになれ!

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   鶏口牛後(けいこうぎゅうご)    出典:『史記』

鶏口牛後の教えと背景

『鶏口牛後』は、中国戦国時代の政治的な駆け引きの中で生まれた故事です。この言葉は、「大きな集団の末端でいるより、小さな集団のトップでいる方が良い」という意味で使われます。

戦国時代、中国では七雄(秦、斉、楚、燕、韓、趙、魏)の諸国が覇権を争う混乱期でした。各国は同盟を結んだり、離反したりしながら生き残りを図りました。この故事は、燕の宰相である蘇秦が斉の王に説得を行った際に用いた比喩に由来します。


エピソード

蘇秦(そしん)という策士が、中国の戦国時代に大国・秦に吸収されるよりも小国の特長を活かしたまま同盟を結ぶことを各国に働きかけました。しかしながら、斉国は秦国への従属を検討してい他のです。

蘇秦は、斉の王が強大な秦国に従属しようとしていることを知り、説得のために王の宮殿を訪れました。

蘇秦:「大王、秦の力は確かに強大ですが、その配下に入ることが本当に最善なのでしょうか?」

斉王:「秦に従えば国を保てると考えているが、他に良策があるのか?」

蘇秦:「大王、鶏口となるも牛後となるなかれ、という言葉をご存じでしょうか?」

斉王:「それはどういう意味だ?」

蘇秦:「鶏の口、つまり小さな存在であっても、そのトップでいることは誇りと自主性を保てます。しかし、牛の尻、つまり大きな組織の末端でいると、支配されるだけで何も得られません」

斉王:「しかし、秦の圧力に逆らうのは難しい。」

蘇秦:「確かに秦は強大です。しかし、独立した国としての威厳を保つことが、長期的には国民の心をつなぎ、安定をもたらすのです。」

斉王はこの言葉に感銘を受け、秦に従属せず、自立の道を選びました。

現代社会への応用例

1. 中小企業の独立精神

中小企業が大企業に吸収されることなく、自らの特色を活かして競争する姿勢は『鶏口牛後』の精神そのものです。

具体例: ユニクロ創業初期は、大手百貨店の取り扱いブランドになる選択肢を拒否し、独自店舗で事業を拡大しました。その結果、独立したブランドとして世界的成功を収めました。

2. 個人のキャリア選択

大企業で一社員として働くよりも、中小企業やスタートアップで重要なポジションを担い、自分のスキルを活かす選択は、『鶏口牛後』の教えに通じます。

具体例: 大企業でキャリアを積んだ後、スタートアップ企業でCTO(最高技術責任者)として主導的な役割を果たし、会社の成長に大きく貢献する事例があります。たとえば、Slackの開発に携わったエンジニアたちは、スタートアップ環境でその能力を最大限発揮しました。

3. 地域社会の独立性

地方自治体や地域コミュニティが、大都市の影響を受けず独自の文化や経済を発展させることも『鶏口牛後』の精神です。

具体例: 熊本県のくまモンプロジェクトは、地域資源を活用して全国的なブランド力を構築し、経済効果を生み出しました。東京や大阪に依存せず、地元発信の魅力を前面に押し出す戦略です。


独立騒動!? 営業部が揺れる日~

とある月曜日の朝、営業部のチームメンバーたちが出社すると、田中部長がいつも以上にソワソワした様子で、なにやら大きな決断を下したらしい…。

【登場人物】

  • 田中部長(50歳):野心家でプライドが高いが、ちょっとズレたリーダー。
  • 山本課長(40歳):冷静だが皮肉屋で、部長の「暴走」を止めるのが得意。
  • 佐藤さん(25歳):純粋で明るい新人社員だが、たまに空気を読まずに爆弾を投げる。

【会話】

田中部長:「みんな、ちょっと聞いてくれ!我が営業部に革命を起こす時が来た!」

佐藤さん:「えっ、革命ですか?また新しいノベルティグッズを作るんですか?」

田中部長:「ノベルティ?違う!もっと大きな話だ!私は思ったんだ。こんな巨大な会社の一部門でぬくぬくしているだけではダメだ、と。」

山本課長:(眉をひそめる)「…また変な本でも読んだんですか?」

田中部長:「ふん!いいか、山本。私は昨晩、中国の故事『鶏口牛後』を読み直したんだ!大きな組織で末端になるより、小さな組織の頭になる方がいい…つまり!」

佐藤さん:「つまり…?」

田中部長:「私たち営業部が独立して、会社から離れ、新しい会社を作るのだ!」

山本課長:(一瞬固まり、吹き出す)「ぶ、部長、それ本気で言ってます?」

田中部長:「本気も本気だ!これ以上、会社本部の『牛』になるつもりはない!私たちが『鶏口』として自由に羽ばたく時が来たんだ!」

佐藤さん:「でも、私たちが独立したら…会社のカフェでコーヒー無料じゃなくなりますよね?」

田中部長:「ぐっ…た、確かにそれはデメリットだが、自由には代償が伴うものだ!」

山本課長:「部長、ちょっと冷静に考えましょうよ。独立して、資金とかどうするんです?」

田中部長:「資金は…そうだ!クラウドファンディングだ!営業部の未来に投資する人々を募る!」

山本課長:「いやいや、そんなの目標額5,000円とかで終わりますよ。営業部の未来に誰が興味を持つんです?」

佐藤さん:「じゃあ、資金調達のために新しいノベルティグッズを作ればいいんじゃないですか?」

田中部長:「佐藤くん、それはいいアイデアだな!…えーと、何を作る?」

佐藤さん:「えっと…『独立宣言!営業部マグカップ』とか?」

山本課長:「部長、それはもう話が完全にズレてますよ。『鶏口牛後』の話をするのは結構ですが、現実問題として、我々が独立したら、競合他社の『牛』に丸呑みにされるだけですよ。」

田中部長:「くっ…確かに…いや、しかしだ!小さいながらも私が“口”で指揮を執る方が…」

山本課長:「いや、それ部長がただ好き勝手やりたいだけですよね?」

佐藤さん:「部長、やっぱりノベルティだけ作って満足しません?」

田中部長:(椅子に座り込み)「ぐぬぬ…わかった。今日のところは独立案を取り下げよう…。だが、次のプロジェクトでは我々が『鶏口』のように輝く提案をするぞ!」

山本課長:「そうですね。じゃあ次は、競合他社の『牛』を倒す企画を一緒に考えましょう。」

佐藤さん:「その時は『牛型ノベルティ』も作りましょう!」

田中部長:「佐藤くん、君は本当にノベルティが好きだな…。まあいい。営業部、次の会議に向けてアイデアを出すぞ!」

こうして、営業部の独立騒動(未遂)は幕を閉じた。田中部長の夢見る「鶏口」ライフは儚く散ったが、その情熱は営業部をひとつにした…かもしれない。


まとめ

『鶏口牛後』は、小さな存在でも主体性を持ち、独立した立場で行動することの重要性を教えてくれる故事成語です。この教えは、現代社会のビジネスやキャリア選択、地域活性化の場面でも大いに参考になります。

自分自身や組織が誇りを持ち、独自性を発揮することで、大きな集団の一部に甘んじるよりも価値を高めることができます。『鶏口牛後』の精神を日常生活や仕事に取り入れ、より自主的で力強い選択をしてみてはいかがでしょうか。

類義語

  • 「独立独歩」 他人に頼らず、自らの力で道を切り開くこと。
  • 「少数精鋭」 小さな組織でありながら高い実力を持つこと。
  • 「自主独立」 他に従属せず、自らの判断で行動すること。

プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

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