将を射んと欲すれば先ず馬を射よ/ポイントに絞って勝利を得る

諸子百家

出典:「前出塞」(杜甫) ただし、諸説あり  

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」のとは

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」(しょうをいんとほっすればまずうまをいよ)は、「大将を倒そうとするなら、まずその馬を射て機動力を奪え」という戦術を表す言葉です。直接狙うにはリスクが大きい相手であっても、その“支え”や“基盤”を先に弱体化すれば、結果的に大将を攻略しやすくなるという教えを含みます。


古来、中国の兵法書や戦場のエピソードのなかで「騎馬武将の馬を狙う」戦略が語られてきましたが、その具体的出典は明確ではありません。ただし、多くの兵法や兵書で「拠点・補給・弱点を先に断つ」という考え方は普遍的に説かれており、それを要領よくまとめたものがこの言い回しだと考えられています。

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」の要点

大きな目標(将)を目指す前に周辺を押さえる

一足飛びに本丸を攻めるのではなく、最初に相手の強みや機動力を支えている部分(馬)を制することで、全体のバランスが崩れ、最終的に目標を倒しやすくなるという戦術。

間接的・迂回的な戦略の重要性

正面衝突を避け、相手の痛手となる部分を先に攻めることで、安全かつ効果的に戦果を上げることを狙うという兵法の基本。

現代への教訓

現代の私たちがこの言葉から学べることは、単に「先に邪魔なものを排除しろ」という戦略論にとどまりません。ビジネスや目標達成、人間関係など、多様な場面に応用できます。

  1. 目標達成のステップを細分化する
    • いきなり最終的なゴールを狙うのではなく、そのゴールを可能にしている前提やリソースに着目します。
    • 例えばビジネスで大きなシェアを奪いたいとき、いきなり相手のメイン商品と戦うのではなく、まず相手の販売チャネルや顧客層へのリサーチ・攻略を徹底して足場を固めるのが有効です。
  2. 優先順位を見極める
    • すべてを一度に手を付けると失敗しがちです。まず“馬”にあたる重要ポイントを見定めて集中攻撃し、徐々に効果を拡大していくのが効率的です。
    • 学習であれば、基礎力が“馬”に当たるでしょう。難関分野を制覇したいなら、先に基礎の抜け漏れをなくすことで、高度な内容も理解しやすくなります。
  3. リスク管理の視点
    • 大将を直接狙えば大きな手柄が得られる半面、失敗リスクも大きい。最初に馬を狙うことでリスクを下げ、勝率を上げるのは、投資や新規事業にも通じる考え方です。
    • 本質的な支点を突くことで、少ない労力で大きな成果を得られるという「レバレッジの効く」戦略ともいえます。
  4. 交渉・説得におけるキーパーソンの把握
    • 直接トップに話を通すのが難しい場合、先に影響力のある部下や仲介役を説得して味方につけると、トップとの交渉がスムーズになることがあります。
    • 人間関係では「まず周囲を固める」というアプローチが効果的な場面は多々あります。

現代ビジネスでの教訓

目標を細分化する

大きな目標に挑むとき、「将」に当たる部分だけを見据えるとプレッシャーが大きくなりがちです。そこへ向かうために必要なプロセス(「馬」に当たること)を洗い出し、一つひとつクリアしていくことが成功の近道です。

「リスク」を最初に減らす

いきなり一番の強敵に突っ込むと、大きなダメージを受ける可能性があります。リスクを抑えるために、先に弱点をつく・邪魔要素を取り除くなど、間接的に勝ち筋を作る視点を持ちましょう。

交渉では「利害」や「人脈」を把握する

ビジネス交渉などで直接トップを動かすのが難しい場合、キーパーソンや信頼を得られそうな中間的立場の人と先に連携を深めるのは有効です。これが「馬」を射る戦略にあたり、トップの意思決定を取りやすくなるでしょう。

まとめ

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」は、

  • 大きな目標や手強い相手に向かうときこそ、一番の“支え”や“基盤”を探して攻略せよ。
  • 無闇に本丸を攻めるのではなく、段階を踏んで要所を抑えることで、大きな成果が得やすくなる。

という戦略的思考をシンプルかつ象徴的に表した言葉です。
この発想は日常のさまざまな場面に活かせるもので、目標を達成するうえでも、相手や周囲との関係を円滑に進めるうえでも有用なヒントを与えてくれます。


田中部長と「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」~営業部、目的のために遠回りしすぎ!?~


シーン:営業部オフィス

営業部に「歴代最大級」のクライアントとの契約チャンスが舞い込む。しかし、田中部長は「社長を直接狙うのではなく、周囲から攻める!」という謎の理論を展開し始め、営業部は大混乱に――。


【登場人物】

  • 田中部長(50歳):作戦が壮大すぎて毎回失敗する熱血リーダー。
  • 山本課長(40歳):冷静で現実主義。部長の暴走を止める苦労人。
  • 佐藤さん(25歳):天然で無邪気。作戦の意図を勘違いし、さらに混乱を引き起こす。

【会話】

田中部長:「みんな、大チャンスだ!」

佐藤さん:「またですか!?毎回そんな感じですよね?」

山本課長:「今度は何です?」

田中部長:「超VIPクライアント“社長の田村氏”との契約を勝ち取ることになった!」

佐藤さん:「おお!すごいですね!」

山本課長:「でも、田村社長って超多忙で、なかなか商談の時間を取れないんじゃ…?」

田中部長:「だからこそ、“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”作戦だ!」

佐藤さん:「えっ?どういう意味ですか?」

山本課長:「つまり、田村社長本人を狙うのではなく、まずはその周囲の人間から攻めるってことですよ。」

田中部長:「そうだ!直接アプローチするのではなく、まず“田村社長の取り巻き”から攻略するのだ!」

佐藤さん:「おおお!なんか戦略っぽいですね!」

山本課長:「いや、絶対ややこしくなりますよ…。」


【田中部長の「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」作戦】

作戦①:社長の秘書を落とせ!

田中部長:「まずは田村社長の秘書“木村さん”を攻略する!」

佐藤さん:「どうやってですか?」

田中部長:「秘書は社長のスケジュールを管理している。つまり、秘書を味方につければ、我々の商談枠をねじ込める!」

山本課長:「確かに一理ある…けど、どうやって味方につけるんです?」

田中部長:「秘書の好物をリサーチした結果、“激辛ラーメン”が好きだと判明した!」

佐藤さん:「えっ!?じゃあ、激辛ラーメンを差し入れすればいいんですか?」

田中部長:「そうだ!“営業部特製・超激辛ラーメン”を持って行く!」

山本課長:「いや、普通に営業資料持って行きましょうよ…。」


作戦②:社長の運転手と仲良くなれ!

田中部長:「次は“社長の運転手”を攻略する!」

佐藤さん:「運転手さんにどうやって接近するんです?」

田中部長:「田村社長がいつも乗る車は“黒のベンツ”だ。運転手に接触し、道端でさりげなく“ベンツ愛”を語るんだ!」

佐藤さん:「じゃあ、私、運転手さんの前で“ベンツあるある”を言います!」

山本課長:「いや、そんな偶然ベンツの話されても不審がられますよ!」

田中部長:「“ベンツを褒める” → “運転手が喜ぶ” → “社長が情報を聞く” → “営業部が話題になる” → “契約成立”!」

山本課長:「いや、論理が飛躍しすぎです…。」


作戦③:社長の愛犬を攻略せよ!

田中部長:「最後に、田村社長の愛犬“ポチ”を攻略する!」

佐藤さん:「えっ!?犬ですか?」

田中部長:「ポチは社長の唯一の癒しらしい!ポチを懐かせれば、我々は社長の心を掴める!」

山本課長:「いや、犬がなついたからって契約につながるとは限りませんよ?」

田中部長:「よし!ポチ用の“特製・高級ドッグフード”を用意した!」

佐藤さん:「わあ、ワンちゃん大喜びですね!」

山本課長:「いや、犬より社長を説得する努力をしましょうよ。」


【商談当日:まさかの展開】

(営業部、クライアントの会社へ到着)

クライアントの秘書・木村さん:「本日はよろしくお願いします。」

(佐藤さん、満面の笑みで激辛ラーメンを差し出す)

佐藤さん:「これ、プレゼントです!」

木村秘書:「えっ!?いきなりラーメン!?」

山本課長(小声で):「やっぱり変だろ…。」

(次に、運転手の前でベンツ愛を語る田中部長)

田中部長:「ベンツのV8エンジン、最高ですよね!」

運転手:「……(困惑)」

(極めつけは、社長の愛犬ポチにドッグフードを差し出す)

田中部長:「ポチ!これが“究極のドッグフード”だ!」

(ポチ、大興奮で飛びつく)

田村社長:「……おや?」


【奇跡の逆転】

(驚く田村社長)

田村社長:「ポチがこんなに喜ぶなんて…。あなたたちは?」

佐藤さん:「えっと…営業部です!」

田村社長:「おもしろい!ぜひ、提案を聞かせてくれ!」

山本課長(小声で):「まさか本当に通るとは…。」

田中部長:「見たか!これが“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”作戦の成功例だ!」

山本課長:「いや、偶然が過ぎます。」

こうして営業部は、 秘書・運転手・愛犬を攻略するという珍戦略 により、まさかの成功を収めた。しかし、次回もこの方法が通用するとは限らず、新たな試練が待ち受けていた。


プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

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