蛇足/余計なことが、逆効果に

失敗

 出典:「戦国策」斉策篇

蛇足とは

「蛇足」は、余計なことをしてしまい、かえって悪い結果を招くことを指します。現代でも人々の行動や言葉遣いに対する教訓としてよく用いられます。

エピソード

故事の舞台は、紀元前270年の中国。戦国七雄と言われ、覇権を競い合っていた混乱の時期です。

そんな戦乱の中、七雄の一国、楚の国において宴会が開かれました。宴席では、一同が興(みこし)に乗っておいしい酒を飲み交わし、歓談していました。そしてその席で一つの遊びが始まります。

宴(うたげ)の中、ある者が酒壺を出し、

「この中の酒を一番早く飲み終わる人に与える。ただし、条件が一つある。先に地面に蛇(へび)を描き終わった者がその酒を飲むことができる」と言いました。

「それはいい案だ!」

大いに賛同した人々は、蛇を描きました。

参加者たちは酒を得ようと、急いで地面に絵を描き始めたのです。

ある男は他の者たちよりも早く蛇を描き終わり、自信満々に酒壺を手に取りましたが、満足してしまった彼はさらに蛇の足を描き加えようとしました。

男が「蛇に足」を描いている間に、他の者が蛇を描き終えてしまい、こう言いました。

「蛇に足なんかあるものんか! お前が蛇の足を描いた時点でお前の絵は蛇ではなくなった」

そして、酒壺を奪い取って、全て飲み干してしまいました。

最初に完成したにもかかわらず、男は「蛇の足」を加えることで自らの勝利を台無しにしてしまったのです。

蛇足の教訓

余足なことや不要な行動はかえって悪い結果を生むことがあるということです。「蛇足」は、大切な目的を見失わず、無駄なことは控えるようにするための教訓となります。

現代社会によくある「蛇足」

仕事や日常生活においても、完璧を目指そうとするあまり本質から逸れ、物事を複雑にしすぎることが失敗を招くことを教えてくれます。特にビジネスの場では、重要なプレゼンやプロジェクトで過度な修正や過剰な作業を施すことで、本来の目的を見失う危険があります。

「蛇足」という言葉は、計画や戦略の中で「本当に必要なものは何か」を考え直すきっかけを与えるものです。

提案書が台無しに?「蛇足」の教訓でミスを防ぐ方法

【登場人物】

  • 田中部長: 完璧主義で細かいところまで手を入れたがるベテラン部長。
  • 山本課長: 実務派で効率重視の若手リーダー。
  • 佐藤さん: 新人社員。少し天然だが、正直な意見を言うのが得意。

【エピソード】

舞台は、某社営業部の会議室。新しいプロジェクト提案書の最終レビューを行っている。

田中部長:
「さて、この提案書だが、全体的には悪くない。ただ、もっと説得力を持たせるために、追加でいくつかのグラフを入れたほうがいいと思う。」

山本課長:
「追加のグラフですか?でも、すでに10ページ以上ありますし、これ以上増やすと、要点がぼやけるかもしれません。」

田中部長:
「要点がぼやける?いやいや、詳細が多ければ多いほど、相手にしっかりと伝わるんだよ。」

佐藤さん:
「あの……余計な情報を入れると逆効果になることもありませんか?」

田中部長:
「逆効果だと?どういうことだ?」

佐藤さん:
「例えば、『蛇足』って故事を知ってますか?」

山本課長:
「それは面白い例えだね。部長、聞いてみましょう。」

佐藤さん:
「昔、中国の楚という国で、ある人たちが酒を飲むために『蛇の絵を描く競争』をしたんです。一番早く描き終わった人が酒をもらえるルールでした。」

田中部長:
「ふむ、競争の話か。続けてくれ。」

佐藤さん:
「一人の人が、一番に蛇を描き終えたんですが、他の人がまだ描いているのを見て、余裕だと思って蛇に足を描き足したんです。でも、他の人たちがその足を見て、『蛇に足なんてない!』と言った結果、その人は負けてしまいました。」

山本課長:
「つまり、必要のないことを追加して台無しにした、という話ですね。」

田中部長:
「ほう……それが『蛇足』の由来というわけか。」

田中部長:
「しかし、君の話は一理あるとしても、ビジネスの提案書に関係があるのか?」

佐藤さん:
「はい。提案書は、ポイントを明確にするための道具ですよね。でも、余計なデータやグラフを入れると、相手が混乱して、結局何を伝えたいのかがわからなくなると思うんです。」

山本課長:
「佐藤さんの言う通りです。提案書の目的は、相手を納得させること。情報が多すぎると、逆に相手の集中力が削がれる恐れがあります。」

田中部長:
「ふむ……確かに、蛇に足をつけるようなことは避けるべきだな。」

田中部長:
「では、この提案書はこれ以上追加せず、現状で完成としよう。ただし、次回からは最初からもっと簡潔にまとめるように!」

山本課長:
「了解しました!」

佐藤さん:
「(小声で)蛇足にならないように、ですね!」

【教訓】

「蛇足」は、物事に必要以上の要素を加えることで、元の良さを損なってしまう教訓です。ビジネスにおいても、完璧を求めすぎて余計な追加をすると、逆効果になることがあります。簡潔で要点を押さえた提案やプレゼンこそ、相手に響くものです。

プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

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