出典:論語
出典と概要
「琴を鼓するを師襄子に学ぶ」は、『史記』や『論語』などで由来する故事で、孔子が音楽を通じて深い教養と感性を育んだエピソードを示しています。この逸話は、孔子が自身の思想形成において、音楽の重要性をいかに重視したかを伝えるものです。
師襄子(しじょうし)は春秋戦国時代の著名な琴の名手であり、孔子に琴の技術と精神を教えた人物として知られています。孔子が音楽を学んだ背景には、単なる技術習得ではなく、音楽が人間性や社会の調和に果たす役割を深く理解する目的がありました。
エピソード
師襄子(しじょうし) と孔子はともに、魯国の有名な楽師(演奏家)であった。
師襄子の音楽の才能は非常に高く、その名声は諸侯の間でも有名だった。
ある日、孔子が訪ねてきて、二人はすぐに琴を弾くことになった。
孔子が興奮すると、師襄子は彼のそばから琴を取り上げて一曲弾いた。
孔子はその演奏を聴いて、とても素晴らしいものだと感じ、師襄子からその演奏を学んだのだった。
師襄子は孔子ほど、控えめな人に会ったことははじめてのことだったという。
孔子も演奏はとても上手だったが、本人は満足をしていなかった。 孔子は師襄子に師事して自分の琴の腕をさらに高めようと決心した。
半月ほど演奏した後、孔子はまだ同じ曲を練習していた。 この時点で、孔子はすでにかなり上手くなっていました。
師襄子 この曲はもうマスターしたのだから、新しい曲を学んではいかがでしょうか?
孔子 はい。曲は覚えましたが、曲を弾く技術はまだ身についていないのです。
数日後
師襄子 あなたは演奏技術を身につけたのだから、新しい曲を学ぶべきです」と再び忠告しました。
孔子はまだ最初の1曲に没頭しています。
孔子 私はまだこの曲の魅力を十分に理解していません。したがって、他の曲を学ぶ気持ちになりません。
さらに数日後。孔子はこの曲の神々しいリズムを完全に把握したことを察した師襄子は、孔子に再び他の曲を演奏するよう忠告しました。
孔子 いえ。まだこの曲を十分に習得していません。
驚いたことに、孔子はまだこの曲を練習すると言い張ったのです。
孔子 この曲の作者が誰であるかを理解して、作者の精神性・創造性が想像できた段階で、次の曲を学びたいと思います。
ついにある日、孔子は琴の音の中で立ち上がり、長い間、遠くの空を眺めてから、思慮深げに言った。
「私は作者の精神を悟った。周の文王以外に誰がこのような曲を作曲できただろうか?」
師襄子は驚いてすぐに席を立ち、孔子に頭を下げた。
「はい!(好的)私の先生がこの曲を教えてくださったとき、この曲の正確な名称は『文王の練習曲』だとおっしゃっていました!」
孔子は、一曲の演奏を通して、作者の精神を悟ることができました。
孔子が琴を学ぶ過程の結論は、紆余曲折を経た精神的な思考の旅でもありました。
曲の内容を学び、次に演奏技術を学び、曲の情緒的な意味を発見し、最後に曲の作者の人間的な精神を探求しました。この段階的なプロセスは、「過去から学ぶ(温故知新)」の学習法も裏付けています。
このような学習方法は、古代のみならず現代にも当てはまります。
人々の新しい知識や学習は、多くの場合、過去に学んだことを基礎として発展していく。 過去から学ぶことは、実現可能で価値のある学習方法だと言えるのではないでしょうか。

孔子と演奏の思想
孔子は「礼楽思想」として、礼(社会の規範や秩序)と楽(音楽や調和)の重要性を説きました。彼にとって音楽は、
- 人間性の向上
- 音楽を学ぶことで、心が穏やかになり、人としての徳を磨くことができる。
- 社会の調和
- 音楽は人々の感情を和らげ、社会の調和をもたらす力がある。
- 教育の柱
- 音楽は、知識だけでなく感性や道徳を育む教育の重要な一部。
孔子が琴を学んだエピソードは、音楽が個人の修養だけでなく、政治や教育にも深く関わることを示しています。

プレゼンを鼓するを、顧客に学ぶ
【登場人物】
- 田中部長: 経験豊富なリーダー。丁寧な指導を心掛けるタイプ。
- 山本課長: 何事も効率を重視する行動派。
- 佐藤さん: 素直で努力家な新人社員。少し不器用だが、学ぶ意欲が高い。
舞台は営業部のオフィス。新しいプレゼン手法について話し合っている場面から始まる。
田中部長:
「さて、今回のプレゼンに向けて、新しい手法を取り入れたいと思う。皆の意見を聞かせてくれ。」
山本課長:
「部長、時間がないので効率重視でいきましょう!簡単なスライドで伝えたいことだけまとめれば十分です。」
佐藤さん:
「でも課長、それだと伝わりにくくなりませんか?しっかり準備して、質の高いプレゼンを目指したほうが良い気がします。」
田中部長:
「佐藤の意見に一理あるな。この場面で思い出すのが、孔子の『琴を鼓するを師襄子に学ぶ』という故事だ。」
山本課長:
「……その話って何ですか?また部長の故事成語講座ですか?」
【故事の解説】
田中部長:
「そうだ(笑)。この話は、孔子が琴を習うときの話だ。孔子は当時有名だった師襄子という琴の名手に弟子入りし、琴の弾き方を学んだ。最初の課題は、ただ一曲を習得することだった」
佐藤さん:
「孔子のことだから、きっと完璧に習得したんでしょうね。」
田中部長:
「その通りだ。しかし、孔子は単に弾くだけでは満足しなかった。曲の意味を深く理解し、作曲者の心情を感じ取ろうとした。そして、最終的にその作曲者がどんな人物だったかまで思い描けるようになったと言われている。」
山本課長:
「つまり、ただ弾けるだけじゃなくて、曲の背景や感情まで理解しようとしたってことですね?」
田中部長:
「そうだ。孔子の学びは『深く本質を掴むこと』に重きを置いている。この姿勢が大事なんだ。」
【現代のビジネスに応用する】
佐藤さん:
「部長、つまり私たちもプレゼンの内容をただ表面的にまとめるのではなく、相手にどう伝わるか、どんな感情を引き出すかを考えるべきということですね?」
田中部長:
「その通りだ。表面的な準備だけでは、本当に相手の心に響くプレゼンはできない。」
山本課長:
「でも、時間が限られている場合はどうすればいいんですか?」
田中部長:
「効率を重視するのも大切だが、優先順位を考えて、どこに力を入れるべきかを見極めることだ。例えば、伝えたいメッセージをひとつに絞り、それをどう深く掘り下げて伝えるかに集中する。」
【準備を進める】
山本課長:
「分かりました。今回はスライドのデザインよりも、話し方や内容の練り込みに時間を割いてみます。」
佐藤さん:
「私も、クライアントの背景を調べて、そのニーズに合わせたプレゼンを考えます!」
田中部長:
「良い心構えだ。孔子のように、深く学び、伝えたい相手の心を理解することを目指そう。」
【数週間後】
佐藤さん:
「部長!今回のプレゼン、大成功でした!クライアントから『ほんとうに心に響いた』と言っていただけました!」
山本課長:
「確かに、深掘りした内容が相手に刺さったみたいですね。孔子の学びの姿勢って、こんなところで活きるんですね。」
田中部長:
「そうだ。深く学ぶことで、本質が相手に伝わる。これが『琴を鼓するを師襄子に学ぶ』の教訓だ。」
【教訓】
「琴を鼓するを師襄子に学ぶ」の教えは、単なる技術や形式を超えて、本質を深く理解しようとする姿勢の重要性を伝えています。ビジネスや日常においても、表面的な準備だけではなく、相手や内容の背景を理解し、心に響く成果を目指すことが成功への鍵となります。
現代への示唆
「琴を鼓するを師襄子に学ぶ」という故事は、現代にも多くの示唆を与えます。
- 深い探究心の重要性
- 孔子のように物事を表面的に捉えず、その本質や背景にある意味を理解しようとする姿勢は、現代の教育や研究においても重要です。
- 音楽と心のつながり
- 音楽が持つ癒しや教育の力は、現代社会のストレス解消や感性教育において大きな役割を果たします。
- 師弟関係の意義
- 孔子と師襄子の関係は、単なる技術の伝授を超えた深い師弟関係を象徴しています。現代の教育においても、教える側と学ぶ側の信頼関係が重要です。
まとめ
「琴を鼓するを師襄子に学ぶ」という孔子の逸話は、音楽を通じて人間性や社会の調和を追求した孔子の思想をよく表しています。この故事は、私たちに物事の本質を探求する姿勢と、音楽の持つ普遍的な力を再認識させてくれるものです。
現代においても、この教えは教育、社会、そして個人の成長に深く関わる普遍的な価値を持ち続けています。