乾坤一擲/人生を懸けた瞬間 決断のとき、あなたは何を賭けるか?

成功

出典:韓愈『過鴻溝』

乾坤一擲の原典

乾坤一擲」(けんこんいってき)は、唐代の名文家・韓愈(768〜824)が詠んだ詩『過鴻溝』(こうこうをすぐ)の中に登場します。

その詩の中に、次のような一節があります:

項王使人言沛公曰:『願與沛公挑一劒。沛公曰:『吾寧斗智,不斗力。』

嗚呼,乾坤一擲與人争,雖成亦怯矣!」
(※現代語訳要約:項羽は劉邦に人を使いこう伝えた「劉邦殿と一対一で戦いたい」。劉邦は言いました。「私は力よりも知で戦いたい」)

この一節から、「乾坤一擲=天地をかけた一回の勝負・全てをかけた大勝負」という意味が生まれ、後に四字熟語として定着したと考えられています。

「乾坤一擲」の初出は諸説あります。しかし、韓愈の詩『過鴻溝』が最も有力であり、文献的な確かさの面でもこの出典を明示するのが正確であると考えられます。

歴史的背景:項羽と劉邦の対決

この詩「過鴻溝」は、楚の項羽と漢の劉邦が天下を争った場面――「鴻溝の約」に触発されたものです。

鴻溝とは、現在の中国・河南省あたりにあった川で、楚と漢が領地の境界とした場所。
項羽は劉邦に対して、「一騎打ちで決着をつけよう」と申し出ましたが、劉邦はそれを断り、「力ではなく知略で戦う」と答えます。

このエピソードを韓愈は詩にまとめ、「乾坤一擲」という表現で、項羽のように命を賭して勝負に出る勇猛さと、それを退けた劉邦の知略的な判断を対比して描いています。

韓愈は詩の中で、項羽のように「乾坤一擲」する行動に対して、たとえそれが成功しても「一瞬の勇気に頼るのは浅はかである」と批判しました。ここから、「乾坤一擲」は当初、軽率な勝負への警鐘という意味合いも含んでいたのです。

しかし時代を経てこの言葉は変化し、ここ一番の勝負に、すべてをかける覚悟」というポジティブな意味合いとして広まりました。

現代社会への教訓

「乾坤一擲(けんこんいってき)」という言葉は、古代中国の歴史や詩から生まれたものですが、その精神は現代の社会においても色あせることはありません。
むしろ、今のような変化が激しく、選択と決断が求められる時代だからこそ、この言葉から学べることは多いのです。

下記に、現代に通じる「乾坤一擲」の教訓を3つの視点からご紹介します。

「ここぞ」という場面で腹をくくる覚悟

現代社会では、毎日が平穏であるとは限りません。進学や就職、転職、起業、告白、プロジェクトの立ち上げなど、**人生を左右するような「勝負の瞬間」**が誰にでも訪れます。

そんなとき、「失敗したらどうしよう」と不安になって、一歩を踏み出せなくなることもあります。しかし、「乾坤一擲」の精神は、「迷っているくらいなら、覚悟を決めて勝負せよ」と背中を押してくれます。

もちろん無謀な賭けを勧めているのではありません。十分に準備したうえで、最終的には覚悟をもって決断する力が必要だという教えです。


逃げ道を断って集中力を引き出す

人間は追い込まれたときにこそ、最大の力を発揮することがあります。
「乾坤一擲」は、あえて自分を背水の陣に追い込み、本気で物事に挑む勇気を表しています。

たとえば受験勉強で「もう後がない」と腹をくくったとき、人はふだんの何倍もの集中力を発揮します。あるいは起業家が「この資金が最後だ」と決めて勝負をかけるときにも同様です。

逃げ道を断つことは怖いですが、その分、意志と行動にブレがなくなるのです。


安全志向の時代にこそ必要な“勝負勘”

現代は、リスクを避け、安全・確実を重んじる風潮が強まっています。失敗しないこと、ミスをしないことが重視されすぎるあまり、「挑戦すること」そのものが減ってしまっている側面もあります。

しかし、現状を打破するためには、時に思い切った決断が必要です。
ビジネスの世界では新しい事業に踏み出す決断、スポーツでは大胆な戦術変更など、勝敗を分けるのはリスクを取る勇気と判断力です。

「乾坤一擲」は、そうした一世一代の勝負の重要性を教えてくれる言葉です。


実生活での活用例

  • 「この大会が最後だから、思いきって全力で挑もう」
  • 「悩んでばかりでは前に進めない。ここは乾坤一擲でやってみよう」
  • 「この提案が通らなければ後がない。勝負に出よう」

このように、日常の中でも、迷いを断ち切って行動するときに、この言葉は力強い支えとなります。


まとめ

「乾坤一擲」は、命運をかけた大勝負を意味する言葉ですが、それはただの賭けではなく、信念と準備の上に成り立つ「覚悟の決断」です。

現代の私たちも、いつか「乾坤一擲」の瞬間を迎えることになるでしょう。
そのとき、この言葉を思い出し、「逃げずに、腹をくくって勝負する」勇気を持てるかどうかが、人生の分かれ道になるかもしれません。

なお、日本の戦国武将や実業家たちが、大勝負の場面でこの言葉を引用するようになったのは、日本における故事成語の受容の一例でもあります。


田中部長と「乾坤一擲」~営業部、人生かけすぎたプレゼン!?~

ある日、営業部に一本の電話が。
――それは、かねてより追いかけていた超大型契約・青山商事との最終プレゼン日が決定したという連絡だった!

田中部長:「ついに来たか……我が営業人生の、乾坤一擲の時が!!!」

山本課長:「部長…落ち着いてください、鼻息が…火山みたいです。」

佐藤さん:「乾坤…? え、部長が剣で昆布を一撃する話ですか?(キラキラ)」

田中部長:「違うわい!! “乾”は天、“坤”は地! 天地のすべてを賭けて、一投にすべてを託すのが“乾坤一擲”!!

山本課長(小声):「サイコロ一個で天と地かけるとか…スケールでかすぎん?」


【田中部長の“乾坤一擲プレゼン大作戦”】


🎲作戦①:「プレゼンは“運命のルーレット形式”で!」

田中部長:「普通の資料なんて陳腐だ!! 勝負は運命に委ねるのだ!!」

佐藤さん:「じゃあ…“どんな提案になるか”はルーレットで決めちゃいましょうか!?

(数時間後、超巨大なプレゼンルーレット完成)


🌀選択肢例:

  • ① 超コスパプラン
  • ② 全部オプション付き激高プラン
  • ③ おまかせランダム提案
  • ④ 桃の香り付き書類(またかっ⁉︎)

山本課長:「えっ、商談内容をルーレットに委ねるの?」

田中部長:「ああ!! それが乾坤一擲だ!!(ドーン!)」


🎲作戦②:「勝負服は“法被とハチマキ”」

田中部長:「勝負の場には正装で挑まねばならん!! 今日はこれだ!!」

👘「営業魂」ハッピ
🟥「勝」ハチマキ

佐藤さん:「うわ~! めっちゃお祭り感ありますね!! お神輿とか担ぎたくなります!!」

山本課長:「せめてスーツで行きましょうよ!! プレゼン先、超大手なんですよ!?」


🎲作戦③:「サイコロプレゼンでギャンブル発動」

田中部長:「最終的には…これにすべてを託す!!」

(ゴロ…と登場する、金色の巨大サイコロ)

佐藤さん:「えっ!? それ何ですか!?」

田中部長:「この“運命のサイコロ”で、クライアントが選ぶ提案内容が決まるのだ!!」

山本課長(真顔):「それもう完全に営業カジノですよね!?」


【商談当日:衝撃の結末】

(営業部、ハッピ姿でサイコロとルーレットを携えクライアントオフィスに登場)

クライアント:「……えっ? 今日プレゼンでしたよね? お祭り営業?

田中部長:「いえ! 今日は我々の乾坤一擲の勝負の日でございます!!」

佐藤さん:「では早速、運命のルーレットから回しますね!」

(ルーレットが回る音:キュルキュルキュル……ドンッ!)

結果:おまかせランダム提案

田中部長(決め顔):「というわけで、本日は…まったく準備してません!その場で考えます!!

クライアント(震え声):「……えっ……」

佐藤さん:「でもハッピは全員分作ってきました♡」


【まさかの逆転!?】

(しばしの沈黙のあと…)

クライアント:「……正直、内容はカオスでしたが……」

クライアント:「あの情熱だけは忘れられません。検討します。

山本課長:「えっ!? 今の、アリなの!?」

田中部長(号泣):「これぞ…乾坤一擲の勝利……!!!(泣)

こうして営業部は、
天と地を賭けた一発勝負――「乾坤一擲」営業スタイルで、まさかの可能性をつかむ!

だが次回、同じ戦法でまた成功するかは…。

天のみぞ知る。🎲

プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

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