出典:「晋書」孫楚伝
石に漱ぎ流れに枕す(いしにそそぎながれにまくらす)とは
明らかな矛盾や失敗をうまく取りつくろう機知や狡猾さのことです。ときには批判をかわし、状況を逆転するための言葉の技術。または、負け惜しみでこじつけをすることです。
現代社会においては、リーダーシップや交渉術、自己表現の場面でしばしば引き合いに出されます。
なお、夏目漱石の「漱石」の由来としても、知られています。
エピソード
中国の三国時代(魏、蜀、呉)を統一後の西晋時代。
一人の青年が、世を捨て山の中に隠居を考えていた青年の逸話です。
この青年の名は孫楚。
祖父は魏の重鎮の孫にあたります。
ある日、王済に相談しました。
王済は、のちに文武両道と世に知られる名士です。
孫楚:石で口をすすぎ、流れを枕にしようと思う。
王済:?
孫楚:(「石を枕とし川の流れで口をすすぎたい」と伝えるところを…。「枕」と「漱」を逆に言ってしまった)
王済:川の流れを「枕」にすることはできないし、石で口を「すすぐ」こともできないだろう?
孫楚:いや…。
王済:孫楚、その詩句は逆ではないのか?石に「漱ぐ」のではなく、流れに漱ぎ、石に枕するべきだ。
孫楚:私は石で口を清めるのが好きなのだ。そして、流れる水の音を聞きながら眠るのが心地よいのだよ。
王済は意地悪で嫉妬深く、言葉で人を傷つけることでも知られていました。
この話は、王済を通じて、世の中に知れわたることになり、世の人は、孫楚の弁舌の巧みさを賞賛しつつも呆れるばかりでした。
(原文)
楚少時欲隠居。 謂済曰、当欲枕石漱流、誤云漱石枕流。
済曰、「流非可枕。 石非可漱。」
楚曰、「所以枕流、欲洗其耳。所以漱石、欲厲其歯。」

オフィスにおける「石に漱ぎ流れに枕す」
【登場人物】
- 田中部長: 冷静沈着な営業部長。部下に厳しいが愛情深い。
- 山本課長: 行動力があるが、時に言い訳で切り抜けようとするタイプ。
- 佐藤さん: 新人社員。素直で観察力が鋭い。
舞台は営業部のオフィス。社内プレゼンの準備中、山本課長が大きなミスをしたことが発覚する。
田中部長:
「山本、これはどういうことだ?この資料、数字が合っていないぞ。」
山本課長:
「え、そ、そうですか?でも、これには理由がありまして……実は、意図的に数字を簡略化してプレゼンしやすくしたんです!」
佐藤さん:
「(小声で)課長、後付けの理由に聞こえるんですが……。」
田中部長:
「山本、それは後付けの言い訳ではないのか?その場しのぎで対応しているようにしか見えない。」
山本課長:
「いやいや、本当ですって!これこそ『石に漱ぎ流れに枕す』ですよ!」
佐藤さん:
「……課長、それ、どんな意味で使ってるんですか?」
山本課長:
「『石に漱ぎ流れに枕す』って、確か『柔軟に対応する』みたいな意味じゃなかったっけ?」
田中部長:
「全然違う。佐藤、教えてやってくれ。」
佐藤さん:
「はい。『石に漱ぎ流れに枕す』は、言い訳をして無理やり自分の行動を正当化するという意味です。もともとは晋の孫楚(そんそ)が、詩の解釈で失敗したときに適当な言い訳をしたのが由来なんですよね。」
山本課長:
「……じゃあ、それを良い意味で使ってた俺は完全に間違ってたってことか。」
田中部長:
「その通りだ。人間、間違いはある。だが、それを無理に正当化しようとすると信頼を失うことになる。」
【言い訳を正そうとする山本課長】
山本課長:
「でも部長、間違いを認めるのって結構難しいですよ。言い訳くらいさせてくださいよ。」
田中部長:
「確かに難しい。だが、ミスを認め、素直に改善案を出す方が結果的に信頼を得ることになる。」
佐藤さん:
「課長、部長の言う通りです。私も間違いを認めたときに逆に相手から感謝されたことがあります。」
山本課長:
「うーん……確かに、言い訳ばかりだと自分でも情けなくなることがあるな。素直にミスを認めるべきか。」
【数日後】
田中部長:
「山本、この前のミス、しっかり修正されていたぞ。クライアントからも良い反応だった。」
山本課長:
「はい、正直にミスを認めて修正案を提示したら、相手も快く受け入れてくれました。」
佐藤さん:
「課長、ついに『石に漱ぎ流れに枕す』を卒業しましたね!」
山本課長:
「もうそのフレーズは使わないよ。これからは『素直さ第一』でいく!」
「石に漱ぎ流れに枕す」の教えは、無理に言い訳をして自分を正当化することの虚しさを伝えています。ビジネスや日常生活では、ミスを認め、素直に改善する姿勢が他人の信頼を得る近道です。
まとめ
「石に漱ぎ流れに枕す」は、単なる機知や言葉遊びを超えて、柔軟な発想と行動力の重要性を教えてくれるものです。現代社会において、誰もがミスや困難に直面しますが、その時に機転を効かす機会かもしれません。
矛盾や困難を避けるのではなく、それらを受け入れ、活用することで、ビジネスでも人生でも新たな成功の道が開けるでしょう。
ただし、扱い方を間違えてしまうと屁理屈な印象に受け止められることがあります。