百折不撓/失敗を恐れず進む勇気

教訓
百折不撓、大節に臨みて奪う可からざるの風有り

出典:「橋大尉碑」(蔡邕)

百折不撓(ひゃくせつふとう)とは

百折不撓とは、どれほど失敗や挫折を経験しても心がくじけることなく、何度でも立ち上がり、努力を続けることを意味します

「百折」とは何度も折れる、つまり失敗や困難を指し、「不撓」は「撓(たわ)まず」、つまり折れたり揺らいだりしない心の強さを表しています。この故事は、どんなに多くの試練に直面しても決して諦めずに挑み続ける姿勢を示します。

百折不撓の歴史的な背景

後漢時代の文人、蔡邕(さいよう)は書家や音楽家としてもその名を馳せた名士です。蔡邕は中国文学史上でも特筆される才能を持ち、知識と洞察力を兼ね備えていました。「三国志」前半の董卓の時代にその名を目にすることができます。

蔡邕は、若いときから博学で親孝行の息子でした。しかし、その生涯は、権力者たちの争いの中で幾度も窮地に立たされることがありました。

蔡邕が著した「橋大尉碑」は、同時代の大尉である橋玄(きょうげん)を称え、その人柄や業績を称賛したものです。この碑文の中で、橋玄の強い意志と大志を表すために、蔡邕は「百折不撓」という言葉を刻みました。

橋玄はその生涯で幾度も政治的な困難や迫害に直面しました。政敵の陰謀により左遷され、家族や部下たちはその不遇を嘆いていました。都では董卓(とうたく)の横暴が広がり、宦官たちが私利私欲のために朝廷を乱している時代でした。

部下A:橋玄さま、董卓の専横が続いております。さらに宦官たちの策謀も加わり、国は乱れるばかりです。こんな時代に正義を貫くのは無駄ではないでしょうか。

橋玄:無駄だと?正義を守る者がいなければ、この国はどうなるのだ。混乱の中にこそ、我々が立ち上がらねばならぬ。

部下B:しかし、橋玄様。これで何度目の左遷でしょうか。我々はもう心が折れそうです。

橋玄:心が折れる? 何を言う。志がある者はどんな逆境にも負けてはならない。人生とは幾度となく挑戦と挫折が繰り返されるものだ。しかし、百回折られようとも、私は決して撓(たわ)むことはない。

その後、蔡邕が橋玄の元を訪れます。

蔡邕:橋玄様、あなたの尊い志しを碑文に刻み後世に伝えたいと思います。この混乱した時代の中で、正義を貫くその強い信念を世に伝えなければなりません。

橋玄:おお蔡邕よ、私は董卓の専横や宦官たちの策謀によって何度も困難に遭ってきた。しかし、志を曲げたことはない。それを言葉にするなら、『百折不撓』と表現できよう。

蔡邕:素晴らしい。まさに橋玄様の生き様を象徴する言葉です。私はそれを刻み、後世に伝えましょう。

蔡邕はその言葉を『橋大尉碑』に刻み、橋玄の不屈の精神は永遠に語り継がれることとなりました。なお、蔡邕は碑に刻んだのち、董卓の援護を誤解されて獄死します。蔡邕の死を知らされた人々は、町中にあふれ、涙が止まらなかったといいます。

橋玄の逸話

 三国志前半に登場する橋玄は、無名の若き日の曹操との対話が有名です。

 治世之能臣,乱世之奸雄

    (治世の能臣、乱世の姦雄)

上記の言葉は、曹操の顔貌から将来を見抜いたとして、現代でも有名です。

百折不撓が伝える精神

蔡邕が記したこの碑文から感じられるのは、ただの「強さ」だけではなく、どれだけの試練に見舞われても、自らの信念と高い精神性を保ち続けることの大切さです。後世において、「百折不撓」という橋玄に向けられた言葉は、碑文を通じて広まり、困難に直面しても決して折れない精神を象徴するものとなりました。

このように、橋玄の意思と生き方を刻んだ蔡邕は、董卓側の暴政に従っていたことから、董卓の死後、王允によって獄死することになりました。

現代ビジネスへの教訓

起業家の挑戦

事例:スティーブ・ジョブズがAppleを追放された後、NeXTやPixarを成功に導き、再びAppleに戻って復活を果たした。

教訓:挫折を恐れず、挑戦を続けることで新たな成功を掴んだこと。

製品開発の失敗と成功

事例:Dyson社の創業者ジェームズ・ダイソンは、5,127回もの試作失敗を経て、最初のサイクロン式掃除機を完成させた。

教訓:失敗を経験として活かし、成功を追求する。

スポーツ選手の復活

事例:マイケル・ジョーダンがNBAから一度引退し、その後復帰して6度のNBA優勝を果たした。

教訓:一度の挫折が全てではなく、再び立ち上がることが重要。

まとめ

「百折不撓」は、新しいプロジェクトの失敗や、キャリアにおける挫折など、大きな目標を持ちながらも困難に直面したときに役立ちます。このような局面で、簡単に諦めるのではなく、「百折不撓」の教訓で立ち向かい続けることが成功への道を開く鍵となります。

プロフィール
編集者
Takeshi

医療専門紙の取材・編集職を15年以上の経験があり、担当編集としての書籍は、8冊(うち2冊は中国・台湾版)があります。

本サイトでは、日々の生活やビジネスで役立ち、古くから伝わる故事成語の深い意味や背景をわかりやすく解説し、皆さまの心に響くメッセージをお届けしたいと思っています。歴史や文学への情熱を持ちながら、長年のメディア経験を通じて得た視点を活かし、多くの方に「古き知恵の力」を実感していただけるようにしたいと思います。

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